緩和ケア医の日々所感

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辛い・・から笑顔を取り戻したAさんのこと


ComfreakによるPixabayからの画像 

Aさんは婦人科癌で手術と放射線治療を受け、
もう何年も再発はない状況でした。

リンパ浮腫のケアのために、
症状緩和・がん患者支援外来を受診されました。

初診時、

 足が腫れているのも辛いけど、
 もう、全部が辛い。
 体がだるくて、涙が出てきて・・
 生きているのが辛い・・・


適応障害でした。
数回程度、精神科専門医の併診を持ちました。



毎回、外来にいらっしゃると、
まずは、

 辛くて・・
 怠くて・・
 もう、死んだ方が楽・・

から始まります。


でも、リンパ浮腫のケアはご自分で取り組めていて、
浮腫みはありますが、
皮膚はしっとりするようになってきました。

ですから、
ひとしきり辛さの話を聞いた後、
その日の診察で見つけたよいこと、
ご自身で出来ていること、
を言葉にして、
数値も見てもらい、
診察の最後は、共に笑って送り出していました。


でも、次の外来になると、
リセットされていて、
まずは、
辛い・・で始まります。

これが数か月に1回の外来の度に
3年程続きました。




ある日、
一緒にケアをやってくれている看護師が、

 先生、先生、Aさん、
 婦人科に、入院になっています。
 どうも、膀胱に小さな穿孔を起こしてしまったようです。

と連絡をくれました。

ああ・・、どんなに落ち込んでいるだろう・・
膀胱バルーンが留置されているでしょうから、
また、死にたいって思っているのではないかしら・・

できるだけ、早く時間を作って、
訪室しようと思いました。



ベットのカーテンを開けたところ・・


 ああ、先生!
 来てくれたの?!
 ありがとうございます。
 なんかね、膀胱が破れちゃったの。

そして、順序良く、どんなことが体に起こって、
どのように入院になったか
話してくれました。



いつもとは違っていました。
辛い、怠い、こんなことになっちゃって・・
ではなく、
辛いことや、起こってしまったことは言語化しつつも、
表情は豊かで、笑顔もありました。




正直に私は伝えてみました。

いつもだと、お目かかった最初は、
辛い・・で始まっていましたが、
今日は、違いました。



 ふふ、
 もうね。
 諦めたの。
 しょうがないって。
 今の自分に付き合っていこうって、思うことにしたの。


何がAさんにそう思わせてくれたのでしょう?



 先生がいつも、
 出来てるよ
 大丈夫、大丈夫って
 言ってくれたから・・



海外の国籍を持つAさんは、
短いセンテンスでお話しくださるので、
本当は、色々突っ込んでお伺いしたい気持ちを
ぐっと抑えて、ただ、ただ、嬉しくて、
握手をして、その日は終わりました。

そして、
幸いにも穿孔は自然にふさがり、
自己導尿の方法をマスターして
早々に退院することができました。




このことを考えていて感じることがあります。

子育ても
成人の支援も似たところがあって
ディフェンス(守り)とオフェンス(攻め)の
バランスだなあと思うのです。

ディフェンスは
内に引き寄せて、守ること。
傷つきやすさをケアし、
危機回避をし、
安定であること、そっとしておくこと
静的な支援です。

オフェンスは
外に背中などを押して、変化を促すこと。
自信を持ってもらったり、
一歩踏み出すことを応援したり、
あるときは、冒険も含めた成長を
動的に支援します。



大体は、この2つのサポートの配分を
患者さんによって変えながら行っていきます。

私は、この背中の押しが強い傾向があるので、
時に、看護師さんが守り役を担ってくれるのも
本当にありがたいなあと感じます。


何よりも、患者さんが、
自分の中にある力に気づき、
歩み続けてくれていることに
何歳でも、どのような状況でも、
人は成長できるものだと
とても励まされた出来事でした。